ウェブサロン
「注文の多いフルーツカフェ」

 第6号 (5月30日号)

 
――――― アメリカン・チェリー ―――――


<ミキ> いらっしゃいませ。

<田中> 毎度! 山から携帯にメールが入ったんで、すっ飛ん
           できましたよ。私もご相伴に預かりたくって。

<山ちゃん> おいしいワインですっかりご馳走になっています。
             折角のお誘いですから遠慮なくいただきましょう。

 山、お前は誰に対しても遠慮がなさ過ぎる。

<賢二> それが山ちゃんのいいところですよ。田中部長、ご無沙
           汰しております。開店のときにはお祝いまでいただいてあ
           りがとうございます。おかげさまで蘭はまだきれいに咲い
           ていますよ。

 今日の手土産は、ほら、カリフォルニアから飛行機で今日ついた
     ばかりのチェリーです。 今年のできを味見してください。

 これはありがとうございます。いまやチェリーは初夏の風物詩です
     ね。初めてアメリカから輸入されたのはたしか30年前だったと思い
     ますが、大変な話題でいろいろ苦労もありましたが忙しくても楽しか
     ったですね。

 お互い若かったってことですかね。

<礼子> 私だって若かったですよ。結婚したのはちょうど30年前
           ですからね。

 よく続いたと思います。

 それは私が特別我慢強かったからですよ。

 そうじゃありません。私はチェリーの輸入がよく30年も続いたという
     つもりで言ったんです。

 マスターとはほんとに長いお付き合いですよね。30年以上ですか
     らね。

 田中部長ワインはいかがですか、お嫌いじゃないですよね。

 私はワインがとても怖いんです。私が怖がるのをもっと見てみたい
     と思いませんか。ついでにビールも怖い。

 部長、もう誰もこの町でその手に引っかかる人はいませんよ。

 喜んで引っかかります。ワイン2本目からはちゃんと御代を頂戴し
     ますから。

 マスター、昔とちっとも変わっていないね。してやったりと思っても、
     ちゃんと帳尻をあわされていたからね。

 そんなことがありましたか。ところで、このごろの輸入チェリーの人
     気はどうなんですか。

 だいぶ前に、輸入解禁日という制度がなくなってから、整然と輸入
     されるようになりましたね。思惑で輸入する人が少なくなって計画的
     な販売がやりやすくなりました。それでも空輸ですから、産地で雨が
     降ったりするとすぐに影響が出るのでこの時期は神経を使います。

 そうでしたね、1978年に始めて輸入が解禁になったときは、国産
     のさくらんぼに与える影響を心配して、国産のさくらんぼの出回る時
     季をはずして輸入を認めるという政治的配慮までして解禁日というの
     があったんですよね。

 結局は、日本のさくらんぼとは、品種も違うし、価格帯も違って輸入
     チェリーが新しいマーケットを作り出したような形で棲み分けたんです
     ね。輸入チェリーの浸透で国産さくらんぼのマーケットも広がりました。

 始め輸入が許可されたのはビング種とランバート種で濃い赤色の品
     種だけでしたが、今では品種にかかわりなく輸入が可能になっていま
     すね。

 お店で見ても品種名は表示していないところが多いですよね。外見や
     味に違いあるんですか。

 相変わらず伝統品種のビング種が多いんですがシーズン初めはカリ
     フォルニアから早生の品種が来ます。同じような色なのでわかりにくいか
     もしれませんが、輸入されたときの箱にはちゃんと書いてありますから、
    お店で尋ねれば答えてもれえると思います。例年6月の半ばからはカリ
    フォルニアより北のオレゴン州、ワシントン州に徐々に移って7月一杯ぐ
    らいでシーズンが終わります。

 黄色い品種もありましたよね。

 レーニアという品種のことですね。一見、国産の一番人気の品種“佐
    藤錦”に見えるかもしれませんが、もっと大粒で、やはり甘みの強い味の
    濃い品種です。生産量も少ないし輸入される期間が短いのでうっかりす
    ると買いそびれるかもしれませんから最初に入荷したら1箱、山に届けさ
    せます。

 それはありがたい。

 またマスターにいろいろ相談するチャンスができるわけですからお安
     い御用ですよ。

 山、さくらんぼは雨に弱いんだよ。収穫期が近づいたときに雨にあた
     ると、軸(果梗)の付け根が割れて商品価値がなくなってしまうんだ。国
     内の産地では早出しをするためと、ミツバチによる受粉を確実にし収
     穫期に鳥による害や雨での品質劣化防止のためにハウス栽培もして
     いる。アメリカでもハウス栽培をしていますか。

 あまり聞いたことがありませんね。私が買い付けに行ったときもひどく
     雨が降ったことがありました。夜、品質への影響が心配でいつもはホテ
     ルのバーでワインでも飲んでいる頃なんですが部屋の窓を開けて耳を
     澄ましてヘリコプターの飛び回る外の音を探していました。

 さくらんぼが心配でシュワルツネッガー州知事でも飛んでくるんです
     か。

 GPSつきのヘリにはパイロットしか乗っていません。果樹園の上空を
     低空で旋回してさくらんぼの実についた雨滴を吹き飛ばすんです。

 それってほんとに効果があるんですか。

 完全じゃないけどかなりの効果があるそうです。ヘリの旋回する音を聞
     いて少し安心してそれからやっとワインです。

 やっぱりそこに行きつきますか。

 カリフォルニアもオレゴンも、ワシントンもいいワイナリーがたくさんありま
     す。折角いい産地に行ったのにいただかないのは失礼ですから、誠意を
     持ってお付き合いさせていただくことにしています。

 ワインに寄せる誠意があったらその10分の一でも妻に寄せていただけ
     ないものかしら。

 奥様、まだいくらも召し上がっていないのに悪酔いなさっていますね。

 大丈夫、まだまだいけます。

 さくらんぼから作られたワインってあるんですか。

 どんな果実でも、ワインは作れますが、さくらんぼは貴重だしワインを作
     るには少し糖分含量が低いのであまり作られてないと思います。希少品と
     しての生産はありますがあまり出回りません。
      オランダでさくらんぼのワインを蒸留して作るチェリーブランデーのほうが
     知られています。
      同じようにりんごからはシードル(サイダー)を経てカルバドスという北フラ
     ンス特産のブランデーが造られます。
      フランスが帝政時代にブドウから作ったブランデー生産をフランス本領内
     で独占するため、他地域でブドウを原料にブランデーを造ることを制限した
     ときに、りんごが取れるノルマンディー地方ではカルバドスというりんごブラ
     ンデー、オランダではキルシュワッサーというチェリーブランデーを発明した
      そうです。

 どこかの国の財務省が課税基準をいじるものだからビール、発泡酒、第三
           の何とかと次々とメーカーが競って発明して売り出すのと似ていますね。値段
           に誘われて次から次と新しいものが出るたびに味見してみますけどやはりどこ
           か虚しい後味がします。

 私たちがベルギーにいったときにいただいたビールの中で、赤い色をした
          チェリーから作ったビールがありましたよね。

 ベルギーは地上のビール天国です。協会・修道院の数だけビール醸造所
           があるといわれていまして、それぞれ個性のあるビールがさまざまな原料、ビ
           ール酵母、醸造法で作られています。チェリービールでとても有名なのがあり
           ます。ラベルにチェリーのデザインが入っていてすぐわかります。チェリーの味
          と香りがしっかり残っていて苦味が苦手な人にも飲みやすいので日本でもファ
          ンが増えているそうです。フルーツカフェに飽きてしまったら次ぎはビアカフェ
          をやろうかな。三ちゃんが喜ぶだろうな。

 いい加減にしてください。店のビールの在庫を試飲で飲みつくしてしまうに
           決まっています。

 試飲で飲みきれないほど三ちゃんから仕入れれば大丈夫です。

 今日はビールはお出ししません。

 折角ですから早速チェリーを味わってみませんか。

 そうしましょう。

 これ洗わないでそのまま食べて大丈夫ですか。

 輸入したそのままの箱ですから洗わないでそのまま食べて大丈夫です。

 残留農薬とか大丈夫なんですか。

 残留農薬はたとえ少しぐらいあったとしても健康への影響は考えられません。
           それより、よく洗わない手で触ることで汚してしまうほうが心配です。それだって
           健康な人ならあまり心配するほどのことではないんですがね。でもフルーツカフ
           ェですから念のためまず手をきれいに洗ってそれからごみなどを流すために流
           水で洗ってからお出しすることにしましょう。

 産地では出荷までにどういうことをするんですか。

 収穫は脚立を使ったりして一粒一粒人手で行われます。それを選果場に集め
           て冷水で洗浄するとともに不良品や小枝などを除きサイズわけをします。
            日本向けは日本政府との協定に基づいてアメリカ政府の担当官立会いのもと
          に日本にいない害虫、コドリンガ(蛾の一種)消毒のための臭化メチルくん蒸、塩
          素殺菌をかねて0度近い冷水での洗浄冷却、箱詰め、包装が行われますので衛
          生的です。

 臭化メチルって確かオゾン層破壊の疑いで使われなくなったんではありません
            か。

 害虫の侵入・蔓延を防ぐための方法としての使用(植物検疫用)はまだ国際的
           に認められています。代わりになる方法も研究されていますがまだ実用の域に至
           っていないということです。

 果実への残留の心配はないんですか。

 臭化メチルはガス体として使用され、とても揮発し易い性質なので温度が上が
           るとすぐに飛んでしまいますから心配要りません。
 マスター、品物のよしあしはどうやって見分ければいいんでしょうか。

 山、それぐらいならマスターに聞かなくても私が教えてあげるよ。まず実割れ、
          潰れがないか、軸(果梗)がもげていなくて緑色でみずみずしいか確認したら次
          ぎは果実のサイズ、形がそろっていること。果実の色が濃くてそろっていること。
          果実の色が薄いのは未熟、濃いのは良く熟れている証拠で甘くておいしいけど、
          実がやわらかくなっているのは峠を越してしまったものだね。

 さすが、人間市場宝に推挙したいほどの目利きですね。

 マスターと30年以上前から付き合ってきたんだからこれぐらい当たり前でし
            ょう。

 今は昔と違って、着いてから商品を見て判断することは減りましたね。

 そうです。IT・情報化時代ですから、産地情報・品質情報・輸送中の状況など
           について適切な管理をしてくれる信頼の置けるパッカーの品物を信頼の置ける
           情報とともに提供してくれる輸入業者から仕入れるのが一番です。それを元に小
           売店の皆さんに事前に案内して販売計画に入れてもらうんですから。 

 まー、張りが合って、艶があって、中まで濃い情熱的な赤い色でハートの形。ま
           るで私みたい。

 奥様、やはり少しお酔いになっておられますね。30年前だったら異議なしです
           が奥様はあえて言わせてもらえばホワイトリカーにつけた30年物のチェリー酒と
           いったところだと思いますが。

 そんな私に誰がした。

 奥様、それは誰かがしたんではございません。それは時間の魔法です。丁寧
           な長期熟成貯蔵で類まれな上物に仕上がったということでございます。

 あら、ほめてもらっているみたいね。私ってそれほどの上物かしら。

 (お客様の安全とご町内の平安のためにこれ以上のコメントは差し控えたいと
           存じます。)



チェリー輸入量、産地別、月別、のグラフ(2007)

cherriesnyuuka.html



チェリーの栄養価、健康機能

cherrieskinousei.html



チェリーの写真

cherriesphoto.html



ベルギー産チェリー
http://www.belgianbeer.co.jp/lineup/list_fg_1_1.htm

ビールのサイト紹介



編集後記


前回のメロンの記事について読者からメールをいただきましたので一部ご紹介します。


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 今回のメロンの記事は面白かったですよ。メロンといってもそれぞれ特徴があること、
最もいい時期に消費しないとそのものの持つよさが出ないこと等なるほどと思います。

 私の経験でこんなことがありました。それはメキシコのメロン生産地で近赤による非破
壊検査装置とそれによるマーケッティング理論の実施ぶりを見たときのことです。

 ① 一番糖度の乗った所謂甘くて特別おいしいものは、出荷対象としない。

 ② 勿論糖度の足りないものも出荷しない。

 ③ 出荷対象は、糖度に於いて一定の幅の中にあるものだけ。

 これがマーケッティングというものですと解説してくれた。初めての知見。なるほどと納
得至極。商品特に果物などには必ず一定の品質が保証されないとリピートして長続きし
ないのだとのこと。あるときは極上品の甘さを経験し、あるときは、何だこれはカボチャか
と思ったらもう次には手が出しにくくなる。それでも何回か購入してあのおいしい物をと思
うが、これが難しい。そもそもそんな特別おいしいものは数において少ないからです。な
らもう止めたとなる。ざっとこんな解説をしてくれました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 近赤外線を使った非破壊の品質検査は、甘さをアピールするだけでなく、“外れ”の
果実を除くとともに、あらかじめ長距離輸送に適さないものを除くという効果もあるようで、
ブランドの信頼感を高めるのに役立っているのでしょうね。


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